―波紋音の誕生― 波紋音作家・斉藤鉄平
1973年生まれ。鉄で家具や店のインテリアなどを造る家に生まれ、小さいときから鉄を叩く音やリズムを聴いて育つ。そのせいだろうか、二十歳頃に打楽器に興味を持ち、アジア、アフリカの民族楽器などを叩きはじめる。
?後に、美術大学の彫刻を専攻してから、音のコミュニケーションをコンセプトにした様々な音響彫刻や創作楽器を製作。
大学在学中の96年に「古美術研究」という寺や神社などの建築様式や仏像を学ぶ研修旅行で、京都、奈良を訪れた。当時、私は日本の古い美術や仏像に興味がなかったのでつまらないと思った旅行だったのだが、ある寺で初めて耳にした水琴窟(注釈1)という音響装置の音にはとても惹かれ感動した。
音は耳を傍立(そばだて)ないと聞こえなく、水滴(すいてき)とは思えないほど金属的で、澄んでいて、心落ち着かせる音色。そして空間にさりげなく溶け込む音。
それからというもの水琴窟の音色が頭から離れず、その音のイメージで新しい楽器ができないか、と考え始める。
鉄という身近にあった素材で、スリットドラム(注釈2)や木魚をヒントに製作をはじめ、試行錯誤のうえ、今の形が完成。
水面に映る波紋のように音がどこまでも広がっていくイメージで波紋音(hamon)と名付けた。
構造は鉄板を叩いたり、溶接したりして(鍛金技法=たんきんぎほう)器を作り、打面を溶断しスリットを入れる。構造はいたってシンプルだが、その音色は金属特有の余韻や響きを生み、干渉、共鳴しあい、倍音を多く含み複雑だ。
スリットの入れ方と器の大きさで音の高低が決まる波紋音は、どんな音がでるか完成してみるまでは予測不能なところも、制作においての楽しみのひとつだ。特に平均律を意識していないので自分の感覚に任せており、スリットの入れ方を計算して平均律をだすのは可能かも知れないが、そこにはあまり関心がない。それよりは自分が心地いいと思える音や響き、フォルム、スリットの美しさを求める。
2009/04/16 斉藤鉄平
水琴窟とは、古くから日本の寺や庭園などにあるもので、底部に小さい穴を空けた甕(かめ)が伏せて地中に埋まっており、その穴に水を流すと、甕(かめ)に溜まった水面に滴(しずく)が落ち反響して音をだす装置。
スリットドラムとは大昔からある打楽器のルーツといえるもので、世界中に存在し、木製や竹の素材が多い。楽器というより、通信手段や儀式に使われ、月、精霊、女性といったイメージをもつ